老女がふんどしと騒ぐ

 

 老女にふんどしは必要ない。しかし、祭り、神輿にふんどしとなると関係する。神輿を担ぐ若衆の

ふんどしを準備するのは女性である。すると老女が結びつく。

 

 私が勤務する特養S老人ホームに入所されている認知症の老女(80才)が、今日は何日だと職員に

問い始める。 職員が壁に貼り付けている暦を指さして日付を回答する。すると老女は数日後に地域で

お祭りがあり、家へ帰らなければならない。家へ返してと騒ぎ始める。どうしてかと尋ねると、家で、

さば寿司を作り、神輿を担ぐ男どものために、ふんどしを用意しなければならない。

 職員がふんどしはタンスにしまってあるだろうと、回答する。  ふんどしは自分でなければ分から

ない。百貨店へ買いに行かねばならない。それで家へ帰してくれ。施設の出口はどこだと、徘徊を始め

るのである。間違いなく、数日後にはその地域で、神輿の出る祭りがある。このような状況を老女の

家族へ伝えると祭り中は忙しい。反って施設で預かってほしいとのことである。

 

 ここから介護職員は大変である。食堂壁の暦を外し日付を分からないようにする。祭りはと問われると

介護職員はもう済んだと統一して回答する。老女はまだ祭りは済んでいない。延期になった。すぐ家に

帰って、祭りの準備をしなければならない。早く家へ返してと、出口を求めて徘徊を始める。

 このような状態が2ケ月程続いた。介護職員は耳にタコができた。やっと、ほとぼりがさめて落ち

着かれた。この時に介護職員は家族の面会をお願いする。家族の方が訪問され祭りは無事に済んだと

説明された。ダメ押しの説得である。

 

 認知症の老女は祭りの時、家族の一員として活動に参加したいのである。ところが家族は忙しくて

認知症の老女の面倒がみれない。このような時、家に帰った老女をただ見守りする人(ボランテイア)

がいたらばと思えた。 老人施設に入所されている要介護者は、家族から隔離されているのではないと

いうことである。                          20202.01.26 掲載