第2章 もの (その2:施設)

           
  つぶやき話のテーマ1:  戸締り
          
 [介護施設の門戸は行きはよいよい、帰りは恐いである。戸締りの鉄則は、施設に          
  入りやすく出にくいのである。何かの施設によく似ていて脱走しにくいのである]          
           
  その業界の常識は、世間の非常識と言うことがある。介護業界ではスタンダードで          
 あるが世間では違っているものがある。具体的な例としては門扉の戸締りである。
          
  私が介護認定会計のパソコンシステムを構築していたころである。パソコンの搬入、          
 設置のスケジュール説明ために、M介護施設を訪問した。初めてのお客様訪問である。          
 服装をただして、M介護施設の正面玄関から入室である。門扉は自動扉で、スムーズに          
 開いた。事務所の受付で訪問の主旨を伝えた。すぐにパソコンシステム管理責任者へ          
 ご挨拶、スケジュールを説明、パソコンの設置個所も確認した。お客様訪問の目的を          
 達成して、いよいよ帰社のため正面玄関へ来た。靴を履いて自動扉の前に来た。

 

 ところが扉が開かない。センサーか誤動作しているのかなと思った。即座に管理
 責任者がこられ正面扉の横の扉に誘導された。横扉を開けるのにノブに取付けてある          
 ボタンを押下された。暗証番号である。それで横扉を開け退出できた。管理責任者          
 から徘徊者の無断外出を防止するための対策と説明を受けた。

 

 私は帰り電車のなかで、先ほどの扉に何か違和感を感じた。普通の家は外から泥棒          
 に入られないように戸締りをする。介護施設は泥棒に入られても、家の中から出られ          
 ないように戸締りしている。これは何かの施設に似ているなと思いがよぎった。          
           
  私が勤務するS介護施設の正面扉も同様である。退出時は扉横に隠されている施錠          
 解放のボタンを押下しなければ、扉は開かない。私はこの経験以降、ボランティア          
 さんがS介護施設を慰問された後、退出時には必ず、施錠解放ボタンを押下し、正面          
 玄関の扉をあけて、お見送りをしている。
          
  介護施設の戸締りは正面玄関だけではない。勝手口や通用門の扉もしかりである。          
 入退室の際、必ず暗証番号を押下して扉のノブを回さなければならない。こればかり          
 ではない。エレベーターの上下昇には暗証番号を押下しないと動かない。ボランティ          
 アさんがエレベーターを利用される場合は必ず同乗して、暗証番号の操作をしている。
          
  団塊世代が介護を受けるころには、セキュリティ管理はどのようになっているのか          
 な? ドアの近くに手形認証や指紋認証システムが設置され、入退室の許可判断が          
 即座になされるようになっているのだろう。          
           
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  つぶやき話のテーマ2:  食堂の壁
          
 [食堂の壁には大きな日替わりカレンダーが掛けてある。また、         
  壁には季節の花や季節行事の絵が貼ってある。保育園の壁のようだ]          
           
  S介護施設では入所者の集合食堂が、リビングを兼ねている。ディ          
 サービスセンターも同様と思う。その食堂兼リビングには、掛け時計          
 カレンダーがかかっている。大きな日替りのカレンダーで手作りである。
 たまに忙しくて日付の更新を忘れて、入所者から「1日遅れているよ」          
 と、声がかかることがある。(しめた。みてもらえていた)「本当だ。         
 有難う。忘れていた。変えるね」と言いながら、日付と曜日を更新する
 のであった。
          
  さらに壁に花や行事の絵が貼ってある。正月であれば、凧、羽子板。          
 2月は雪だるま。春はひな祭り、桜、鯉のぼり。夏は七夕、ひまわり。
 秋は山の紅葉。暮はサンタクロースである。これらの絵は1メートル         
 四方の貼り絵である。介護職員が下絵して、入所者の方々がレクレー          
 ションの一つとして、貼り絵されたものである。季節感を表すものと          
 して、食堂の壁にかけているのである。食堂のこのような光景を見て
 いると、何か、幼稚園・保育園のようだ。ディサービスセンターでも、          
 利用者の方々に、季節を感じていただけるように同様な貼り絵等を
 展示している。
          
  団塊世代が介護を受けるころには、食堂の壁はどのようになって          
 いるのかな? 全てマルチビジョンになって、季節の映像を放映して          
 いることであろう。
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  つぶやき話のテーマ3:  至福の時間
            
  [現代人は何とあわただしいことか。満足に朝ごはんも食べていない。            
   しかし施設内は別世界である。至福な時間が過ぎていく。                  ]          
             
  私は毎朝職場へマイカーで通勤している。速度は制限スピード程度で運転している。                 
 それでも車を接近させて、すぐに追い越していくものもある。追い越した車は、先の            
 コンビニ店に停まっている。推測するに朝飯を買いに行っているようだ。たまに対抗            
 車線の車で、コンビニのコーヒーを飲みながら通り過ぎているものがある。私の車を            
 追い越したものも、同じような運転をするのであろうか? 出勤途上で、朝ごはんを            
 済ませるのである。なんとあわただしいことであろう。

 

          私は、出勤の1時間半前(AM5:30)に起きて、新聞を読みながら朝食をとる。            
 食後の散歩をかねて20分程、家庭菜園の見回りをする。その後トイレを済ませ、整容            
 して7時頃出勤である。サラリーマン時代に1時間半の長距離通勤していた時の朝の生活            
 パターンと同一である。サラリーマン時代は家庭菜園の見回りがなくて、犬の散歩の時間            
 であった。その朝の生活パターン(朝起き5:30)が、現在も続いているのである。
        これは夏は良くても、冬はかなり厳しい。

            
  一方、S施設の利用者はどのような生活パターンであろうか?朝7時頃から起床が始まる。          
 起床 着替えて洗面して、食堂でテレビを観ながら朝食待ちである。その間に、看護師は食前薬の            
 投薬をしたり、職員はお茶や汁ものにとろみをつける等、配膳の準備をしている。利用者の方々            
 が食堂にそろわれた。エプロンをつけて、合掌しながら口腔体操(パタパタピタパタ等の発声)            
 をして、いよいよ食事の開始である。テレビを消して、静かな音楽を流す、食事の時間である。            
 食事の内容や介助等は、別の章に記述する。

            
  食後は口腔ケア(歯磨き)して、おっしこ等を済ませれば、朝寝もよしである。ほとんどの方が、            
 食堂でテレビを眺めている状態である。テレビをみていると、上瞼と下瞼がくっつきあってくる。            
 居眠りが始まるのは、当然の成り行きである。至福な時間が過ぎていくのである。現職の人達と            
 食後に雲泥の差がある。介護職員はホットするひと時である。この時とばかりに小さなサービス            
 が始まる。男性であればひげそりである。エプロンをつけて電気カミソリで髭をそる。男女に            
 かかわりなく、耳掃除や爪切り、整髪(ブラッシング)等を行う。益々、眠たくなることであろう。            
 しかしこの居眠りも小休止程度であり、すぐにティーブレイク(お茶)する。朝のレクレーションや            
 ボランティアさんが行う習事(趣味)の時間に代わっていくのである。

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  つぶやき話のテーマ4:  騒げば騒ぐ   

         
  [食後の静けさは最高。一旦騒がしくなると、段々エスカレートする。]
             
  朝飯食ったら朝寝して、昼飯食べたら昼寝して、起きてる時は居眠りして、晩飯を食べたら            
 動き出す。これは私が高校生時代に皮肉られて言われていた言葉である。身体的な成長期はよく            
 食べてよく寝るといわれていることである。高齢者は身体的に老化しているが、食後によく居眠り            
 をされる。食後の少しの居眠りは、健康にも良いこととしておこう。ところが反対の時は大変だ。

            
 「朝ごはん食べていない」「もし もし 亀よ 亀さんよ・・・・・・」「ぎゃあー ぎゃあー」

等の大声が発せられ、継続するとこれが契機となる。次に「うるさい」と怒鳴る人が出てくる。            
 「うるさい」と一言われても奇声は止まず、「うるさい」が連発し、段々と高揚した「うるさい」            
 となる。この段階になると入所者は居眠りから覚め始める。目覚めた人達は、体を少し動かしたり           
 車椅子を動かし始める。この場一帯が、ざわめきだしたのである。食後にトイレを済ませている            
 のに、またトイレへ行きたくなる人が出てくるのである。

            
  ここからが介護職員の腕の見せ所である。介護職員が大声で「・・・・・・」としゃべっては            
 ならない。火に油を注ぐことになる。心を冷静にして静かな声で「ぼちぼちお茶にしましょうか」            
 「・・・・・・」等と話しかけるのである。ざわめきを鎮めながら、場の雰囲気をやわらげていく           
 ことである。するとお茶やレクレーション等の時間へ移行できるのである。奇声を発せられた方の
 対処を、まず行うことは言うまでもない。放っておいたので、「うるさい」等の声が誘発されたの

である。

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    つぶやき話のテーマ5:  空調機  

          
 [夏は28度、冬は22度。これはエコ対策のために設定された          
  空調機の温度である。各部屋、食堂、浴室等全館内におよぶ。 ]          
           
  私達は、季節を何でもって感じるであろうか?五感で感じると思う。目で見て、耳で聞いて、          
 鼻でかいで、舌で味わい、皮膚で触れることにより感じる。気温は皮膚で感じることになる。          
 暑ければ衣服を脱ぎ、寒ければ衣服を重ねることは、当たり前のことである。ところが熱さ寒さを          
 どの程度の気温で感じるかであろうか?天気予報学的には真夏日、真冬日であろう。しかし          
 それには個人差があると思う。私は朝・夜と昼間の温度差で、季節の変化を感じる。具体的には          
 冬から春・初夏にかけて、夏から秋・初冬にかけての日々で季節変化を感じる。熱さ寒さも彼岸          
 までである。熱さ寒さにより衣服を変えていく。さらに室温の変化とともに空調機等を利用する。          
 空調機の力で夏は涼しく、冬は暖かくすごせるようになった。快適な生活環境である。
          
  S施設では空調機を稼働させて、入所者が快適に過ごせるように、室温を調整している。この          
 室温は夏が28度、冬が22度である。これは社会的なエコ対策を参考にして定めた室温である。          
 空調機を稼働させて春は温暖で、夏は真夏日にならず、秋は涼しく、冬は極寒にならず1年中          
 常に温暖な日々となっている。このように温度変化の少ない部屋環境で過ごすと、衣服は変化          
 せず、同じような服を着ている状態になる。夏冬で、介護職員が入所者の方々の衣替えをする。          
 ところが、入所者の方々は活発に行動されないので、あまり汗をかかれない。それで、Aさん          
 (92才男性)は、夏でも冬のジャンパーを着ていた。歳をとると暑さ寒さの調節ができにくく          
 なるのであろう。常夏の環境にも良し悪しがあるようだ。  

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